イスラエルが求めるフセイン後の“脅威”

執筆者:立山良司2003年5月号

打倒フセインを謳ったネオコンとイスラエル右派の論理は極めて似ている。ただし、イラク戦争後の中東像を考えるとき、両者の同床異夢は明らかだ。イスラエルは「ロードマップ」と呼ばれる中東和平構想に対する牽制を始めた。「イラクを非武装化し、民主主義と平和を中東地域にもたらそうとする米国の努力を、我々は深い尊敬の念をもって見ている」 三月末、ワシントンで開かれたユダヤ・ロビー組織AIPAC(米国イスラエル広報委員会)の年次総会で、イスラエルのシャローム外相は米国の対イラク攻撃をこう賞賛した。これを受けるかのように、バグダッド包囲網が確立されつつあった四月六日、米国のウルフォウィッツ国防副長官は、米テレビで「イラクは、イスラム世界やアラブ世界でも民主国家が建設できることを示す引き金となる」と発言した。米国のネオコン(新保守主義者)とイスラエル右派が一九九〇年代中頃から主張してきたサダム・フセイン体制打倒論は、今まさに現実になろうとしている。しかし、両者の考えや狙いは完全に一致しているわけではない。そこには微妙なずれが感じられる。中東民主化をめぐる思惑の違い 9.11同時多発テロ事件で米国の脅威認識が大きく変化して以来、ブッシュ政権中枢や周辺にいるユダヤ系のネオコンがイラク攻撃の旗振り役をしてきたことは周知の事実だ。イスラエル紙『ハアレツ』ですら、今回の戦争を主導したのは三十人ほどのネオコンだが、そのほとんどはユダヤ人であると報じている。ネオコンの論理構造は、シャロンやネタニヤフなどイスラエルの右派指導者のロジックと驚くほどよく似ている。フセイン体制が転覆して民主的な政権ができれば、イラクは大量破壊兵器の開発・製造やテロ支援を止め、地域が安定するという主張は、アラファトが退陣してパレスチナ自治政府が民主化されれば、テロがなくなり、イスラエルとの和平交渉が可能になるというシャロンらの論理と同じ構成だ。結局、フセインとアラファトを同一視し、彼らの力をそぐことが米国やイスラエルの利益になるとの主張だ。

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