エジプトの憂鬱

執筆者:村上大介2003年5月号

[カイロ発]「サダムのイラクを侵略から守れ、義勇兵を送れ、と叫んだイスラム原理主義者や民族主義者、左翼に誤った方向に導かれたカイロの人々は、いま愕然としている。フセイン政権の崩壊に対するバグダッドの人々の歓呼の声は、過去半世紀のアラブの文化、政治システム、そしてメディアを嘲笑した」 バグダッド陥落の翌日の汎アラブ有力紙『アッシャルクルアウサト』は早くも、イラク戦開戦後、いっそう反米感情を強めていたアラブ世論に冷水を浴びせかけるようなコラムを掲載した。この「愕然」という思いは、一部の宗教勢力や政治勢力の「扇動」に乗せられた人々に限らず、アラブ各国で多くの人々が抱いた感情であろう。 この戦争では、エジプトも米国の「イラク侵略」に抗議する国民の激しいデモに見舞われた。開戦当日には、日本人観光客もよく訪れるカイロ中心部のタハリール(解放)広場で、約二万人の市民が治安部隊と衝突し、双方あわせて百五十人の負傷者を出した。さらに警備が強まった翌日も、市内数カ所で起きたデモに参加した民衆は、同広場に通じる道々を押さえた治安部隊の封鎖線を突破して広場に突入。ナイル川のほとりにタイヤを燃やす黒煙が立ち上った。

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