CIA長官の行き過ぎた「情報クッキング」

執筆者:春名幹男2003年6月号

「情報のクッキング」という言葉が、一九八〇年代から、情報の世界でよく使われる。情報の調理、つまり政治的目的に合わせて情報を利用すること、時には歪曲することを意味する場合もある。 ブッシュ米政権が米国民の圧倒的支持を得てイラク戦争に勝利した舞台裏で、実は、情報のクッキングが行なわれていた。 ブッシュ米大統領は、フセイン・イラク大統領と国際テロ組織アル・カエダの「関係」について何度言及したことだろう。五月一日、空母エイブラハム・リンカーンの艦上で行なった事実上の勝利宣言でも大統領は、フセイン政権を「アル・カエダの同盟国」と指摘した。「今後イラク政権から大量破壊兵器を手に入れるテロ組織はない」とも述べた。 だから、大半のアメリカ国民は、フセイン政権がアル・カエダを支援してきたと認識している。アル・カエダが犯した一昨年の9.11米中枢同時多発テロ以後、対テロ戦争がアフガニスタン攻撃、イラク戦争と続いたことに、違和感など全く抱いていないのだ。 だが、本当にイラクとアル・カエダの関係は確実な証拠によって実証されただろうか。 もちろん情報は多々あった。 その一は、同時テロ実行グループの主犯モハメド・アッタがテロの五カ月前の二〇〇一年四月、チェコの首都プラハでイラク大使館の書記官イブラヒム・サミル・アニと会い、プラハにある米系のラジオ局「自由ヨーロッパ放送」の爆破を謀議したとされる情報。アニは外交官を偽装したイラク情報機関員であることが知られていた。

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