シリアを支配するイスラム教アラウィー派

執筆者:立山良司2003年6月号

 サダム・フセイン体制の崩壊が明らかになり始めた四月初め、米国政府のシリア・バッシングが急に強まった。フセイン政権の要人を受け入れているとか、大量破壊兵器を隠匿しているなど、米政府高官が一斉にシリア非難を始め、「次はシリアか」といった観測が駆け巡った。突然の圧力に驚いたシリアが対米批判のトーンをやわらげ、ブッシュ大統領も「シリアは我々に耳を傾け始めた」と発言した結果、シリア問題はいくぶん棚上げされた感じがある。それでも状況は依然微妙だ。 人口一千六百万人のシリアの現政権はサダム・フセイン政権と同様、汎アラブ主義を掲げるバース党の政権だ。だが実態はバッシャール・アル・アサド大統領自身を含め、アラウィー派と呼ばれるイスラム教少数宗派が権力を握っている。その意味でも、ティクリート閥と呼ばれた血縁・地縁で固められたサダム・フセイン政権の支配構造とよく似ている。 かつてアラウィー派は地中海に面した港町ラタキアの背後に南北に延びる山岳地帯に集中して住み、貧困にあえいでいた。同派はシーア派の流れを汲むとされているが、ムハンマド(マホメット)の娘婿のアリー(スンニー派では第四代正統カリフ)を神格化するなど教義には特異な面も多く、キリスト教の要素も混入している。このためスンニー派の一部はアラウィー派を異端と見ている。

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