フランスに本社を置く食品大手のダノンが、ヤクルト本社の株式を買い増した。保有比率を発行済み株式の五%から一気に一九%に引き上げたのだが、事前に一切相談はなかったため、ヤクルト側は戸惑いを隠せない。ダノンの動きは一見唐突にみえるが、欧州の食品大手の側に立てば、大消費市場ニッポンに注目したくなる気持ちはよく分かる。 新聞報道では、ダノンの狙いをヤクルトが持つ乳酸菌飲料分野の技術、あるいは海外事業の成長力と分析している。だがダノンが欲しいのは「ヤクルト」というブランドそのものだと見た方が正しい。日本の消費者に食品や飲料を売るには、日本国内で知名度が高く、消費者が安心して買ってくれるブランドが不可欠である。文化と習慣に根ざす食品ビジネスに関する限り、海外のブランドをそのまま持ち込むだけでは成功は難しいからだ。 各国あるいは各分野における強いブランドの買収は、食品大手に共通する戦略。例えばダノンがミネラルウォーター事業で持つブランドは「エビアン」と「ボルヴィック」。一方、スイスのネスレは「ぺリエ」「ヴィッテル」「サンペレグリノ」を傘下に持つ。浸透したブランドはそのまま生かしているのだ。「ヤクルト」ブランドが手に入れば、日本国内ではダノンの乳飲料製品にヤクルトを冠した商品名を付けられるし、健康志向の乳酸菌飲料ブランドとして磨きをかけて、世界のマーケットで使うこともできる。

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