政権発足三年目に入った四月二十六日、小泉純一郎首相は欧州訪問に旅立った。英国、スペイン、フランス、ドイツ、ギリシャ五カ国を回る七泊八日の旅。イラク復興支援問題が最大のテーマだった。最初の訪問地ロンドンに向かう機中で、首相は同行記者団に熱っぽく意気込みを語っている。「イラク復興は国際協力の下で支援することがイラク国民にとっても、米国にとっても望ましい。率直に訪問国と話し合って、国際協調体制をつくり上げていきたい」。そして、「エビアン・サミット前に米国を訪問し、ブッシュ大統領と意見交換したい」とも付け加えた。六月一日からのエビアン・サミットに向け自分が米欧の調整に動く、根回し役を引き受けるとの決意表明だった。 そんな「大それた挑戦」に首相を向かわせた一因は中曾根康弘元首相のアドバイスである。在任当時、レーガン米大統領との個人的な信頼関係を生かし国際社会でも名前を売った八十四歳の大勲位は、川口順子外相を通じて首相に伝言を託していた。「米欧が対立している今こそ日本外交のチャンスだ。米欧の分裂の調整、国連機能の回復に一番働けるのは日本だ。あなたたちの腕前にかかっている」。 使命感を与え、功名心をくすぐる中曾根マジック。加えて、一昨年のジェノバ、昨年のカナナスキスと二回のサミットを経験し、各国首脳とそれなりの信頼関係を築いたという自負、中でも「ロン・ヤス関係を超えた」ともいわれるブッシュ大統領との親密な関係が、首相に「やれるかもしれない」「やってみよう」という気持ちを起こさせていた。

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