四月九日、巨大なフセイン像が引き倒された。世界に放送されたこの光景は、アラブ世界を大きく揺るがした。アメリカ、力、正義をキーワードに、新進気鋭のアラブ専門家がフセイン後の中東世界を分析する。 イラク戦争が終った。しかし、開戦から日本で流れた膨大な報道や論評の中で、意外にも薄弱だったのは、イラクという国、そこに住むイラク人の視点ではないだろうか。何も「民衆の視点からこの戦争の惨禍を直視しろ」などと言うつもりはない。この戦争はあくまで「イラク問題」をめぐる「イラク戦争」である。ところが日本の報道では、それがあたかも全て「アメリカ問題」であって「アメリカの戦争」であるかのように伝えられていたのではないか。イラクの戦後復興へ適切に取り組むためにも、イラク人がこの戦争にどう対応したか、フセイン政権の重石が取れた現在何を考えているか、把握しておかなければならない。 この戦争を象徴する映像として代表的なものは、四月九日のフセイン像引き倒しの光景だろう。ラムズフェルド米国防長官は十一日の記者会見でこの光景を「解放されたイラク人が新たに得た自由を祝している」ものとし、イラク人が米英軍を「解放者として歓迎している」と解釈して見せた。当然、こういったブッシュ政権側の解釈がどこまで正確にイラク人の心情を反映しているかには疑問がある。しかし、ブッシュ政権の解釈を批判する日本のマスメディアなどの「検証」は、かなり的外れなものだった。

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