名誉毀損で五百万円――判決で高額の賠償金を命じる裁判所の背後で何が起きているのか。「ここまでジャーナリズムに対して全否定した判決に驚きを感じている。これでは、何も書けない」 今年二月二十六日、東京・霞が関の司法記者クラブで、ジャーナリストの櫻井よしこ氏が、判決への不満を吐露した。一九九五年に「大宅壮一ノンフィクション賞」を受賞した『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』。この作品など櫻井氏の著作によって名誉を傷つけられたとして、厚生省(当時)のエイズ研究班長だった安部英元帝京大学副学長が一千万円の賠償を求めた訴訟の控訴審。東京高裁(大藤敏裁判長)は、櫻井さんに四百万円の支払いを命じた。安部氏の請求を退けた一審とは正反対な、驚くほどメディア側に厳しい判決だった。 裁判で問題とされたのは、安部氏が(1)一部製薬会社のために安全な加熱血液製剤の治験を遅らせた(2)自ら理事長を務める財団法人のために製薬会社から寄付を募っていたことがその背景にある、などとした記述。記事が公益目的で書かれたことなどについては争いがなく、争点は「内容が真実かどうか(真実性)」と「仮に真実でなかったとしても真実だと信じても仕方のない理由があったかどうか(誤信相当性)」の二つに絞られていた。

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