アチェから始まる「恐怖の連鎖」

執筆者:竹田いさみ2003年7月号

「和平」の動きは露と消え、インドネシア国軍とアチェ独立派の争いが激化。このままでは、各地に紛争を飛び火させかねない。 一縷の望みを託して、日本政府は五月十七、十八日にアチェ和平会議を東京で開いた。インドネシアからの分離独立を求める「自由アチェ運動(GAM)」幹部と、独立の完全放棄を求めるインドネシア政府代表団を、何とか和平交渉のテーブルに着かせようとしたのが、この東京会議であった。実質的な交渉の仲介は、スイスの国際NGO(非政府組織)の「アンリ・デュナン人道対話センター(HDC)」が行ない、日本は米国、欧州連合(EU)、世界銀行とともに、アチェ和平・復興プロセスを支える四議長国の一員としてお膳立てをしたわけである。 インドネシア政府とGAMの関係は極度に悪化し、相互不信が増幅していた。双方が原則論の立場を譲らない中で、日本とHDCによる懸命の説得の末に、両者は来日して交渉のテーブルに着くことに同意したのだ。しかし結果として、東京会議は宣戦布告の場となってしまった。交渉決裂を受けて、インドネシア政府は十九日に軍事非常事態を宣言し、国軍がアチェでGAM掃討作戦を開始した。 インドネシアのスマトラ島北西部に、豊富な石油・天然ガスが埋蔵されているナングロアチェ・ダルサラム州がある。人口は四百二十万人で、シンガポールとほぼ同規模だ。マラッカ海峡の開口部に位置し、タイ南部の観光地プーケット島やマレーシアのペナン島と広大な海で結ばれている。天然ガス田の開発拠点は、マラッカ海峡に面したロクスマウェで、エネルギー資源の大半が日本へ輸出される。日本の液化天然ガス(LNG)総輸入量は年間五千五百万トンで、インドネシアからが実に三割を占める。アチェからは総輸入量の約六・四パーセントにあたる三百五十万トンを輸入しており、電力会社が買い取っている。

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