「六対三」に割れた政治局常務委員会議

執筆者:藤田洋毅2003年7月号

なぜ、中国のトップ九人が集う会議の採決が割れたのか。前首相の朱鎔基がかたくなに沈黙を守る理由は? SARSの衝撃に揺れる権力の中枢を描くスクープ・レポート。「時代の転換点です。時に亀裂が走るのは、避けられないでしょう」――中南海の中枢に詳しい中国筋は言った。WHO(世界保健機関)は中国の情報開示や感染者報告例の情報不備などに疑念と不満を残しながらも、六月五日、新型肺炎SARSは峠を越えたようだ、と発表した。「船出したばかりの胡錦濤丸にいきなり襲いかかった横波=SARSで、政権は大揺れに揺れ、船内まで浸水したようです」と同筋は表現した。最高指導者九人で構成する政治局常務委員の間に亀裂が走り、SARSは癒しがたい傷跡を残したようなのだ。 焦点は、張文康衛生相と孟学農北京市長の更迭を決定した四月十七日の政治局常務委員会議だ。患者・死亡者数の過少報告・隠蔽を厳しく批判した胡錦濤総書記は、この日の会合で二人の解任を提案、採決をとった。結果は「賛成六・棄権三」。二人の解任もさることながら、「棄権三」の情報に、中南海では「驚きの声が広がった」という。 複数の関係筋の情報を総合すると、棄権した三人は、いずれも江沢民・党中央軍事委主席直系で序列二位の呉邦国・全国人民代表大会常務委員長、同四位の賈慶林・全国政治協商会議主席、同六位の黄菊・筆頭副首相。軍は言うに及ばず、党・政府の閣僚級以上の高官人事は依然、江が最終決定権を握っているとされ、今回の人事も「当然、江に事前に報告し了解を得て胡は提案した」のは間違いない。にもかかわらず三人は棄権した。中南海に様々な憶測が飛び交った。

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