「快楽失調」になっていませんか?

執筆者:今井毅2003年8月号

 日本人は遺伝的に快楽を得にくいことをご存知ですか? 科学雑誌『ニュートン』の特集記事によると、幸福感をもたらす脳内快楽物質セロトニンの受容体遺伝子には、長さの違う二つのタイプがあり、日本人の九八・三%が短いタイプ、すなわち快楽物質を受け取りにくく、不安傾向の強い遺伝子をもっているそうです(アメリカ人では六七・七%)。 快楽が足りないと、どうなるか。私はこれを「快楽失調」と名付けました。快楽失調とは、純粋に楽しみを求めたり味わったりすることのできない状態です。不安や緊張や恐怖に苛まれて生きる喜びを味わえない状態です。栄養が足りないと栄養失調になるのと同じように、脳に入る快楽の刺激が足りないと、人は快楽失調になってしまうのです。 詳しくは拙著『快楽生活術』(NHK出版)を読んでいただきたいのですが、快楽失調が長引くと、時に危険な状態を招くことがあります。というのも、脳内快楽物質の濃度が薄くなると、人は食べ物やアルコール、薬物などで安易に快楽を求めようとするからです。 快楽失調の「症状」としては、過食やアルコール依存、ひきこもりや鬱、買い物依存や衝動買い、過度に危険な遊びに走る、仕事に逃避する、あるいは老人であれば痴呆にもつながるぼんやりした状態、といったものが挙げられます。かつては、学術的には「病的な遊び」、あるいは「余暇生活不全症候群」と呼んでいました。

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