「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちればただの人」という単純明快な名文句を残したのは、一九五五年の保守合同(自由民主党結党)の立役者、大野伴睦元衆院議長である。半世紀経っても議員心理は変わらない。一夜明ければ「ただの人」になってしまうかもしれない選挙が目の前に迫れば、国会議員は居ても立ってもいられなくなるものだ。「十月衆院解散-十一月総選挙」の見通しが強まり、永田町の住人が一斉に浮き足立ったのは、イラクへ自衛隊を派遣するイラク復興支援特別措置法案が衆院特別委員会で可決された七月三日夜のこと。ホテルオークラの鉄板焼レストラン「さざんか」で開かれた与党三党の党首と幹事長による夕食会が震源地だった。ご機嫌だった公明党コンビ「九月中旬に臨時国会を召集するということで一致した。解散については総理から『連立の信義を大事にする』という発言があった。総理は繰り返し『連立の信義を大事にします』と、こっちに向かって言われた」 興奮気味に会談結果をブリーフィングする神崎武法公明党代表のひと言ひと言に、記者団は色めきたった。「九月中旬召集」も「連立の信義」も、十月解散の方向を指し示していたからだ。 前回衆院選は三年前の六月二十五日。任期が残り一年を切り、解散時期に「超」が付くほど敏感になっていた衆院議員には、それだけで十分なニュースだった。「十月解散で準備しろ」。この夜、多くの議員が緊急指令を秘書に発している。永田町の空気は一変し、この日を境に国会の人口密度は一気に低下した。

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