人民元論議に見る日中の「バカの壁」

執筆者:津上俊哉2003年9月号

中国は近く元レートを切り上げる覚悟をすべきだが、大きくフロートした元は日本をも揺さぶる。両国は地域通貨の安定を目指せ。 人民元レートの調整を求める声が世界中に拡がっている。 七月十六日、グリーンスパン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は議会証言の中で「中国当局が人民元を(米ドルに)ペッグし続ければ、国内経済を危険に晒すことになる」と発言した。十八日には欧州委員会のプローディ委員長も同調する発言をしたと伝えられた(サウスチャイナ・モーニングポスト紙)。 調整を求める声が高まった背景には昨今の米国のデフレ懸念、EUのユーロ独歩高懸念があるが、もう一つの背景は中国の外貨準備激増だ。 中国は現行レート(一米ドル=八・二七六―八・二八〇元)の上昇を防ぐために、外為市場で膨大な量の米ドル買い/元売り介入を続けている(次頁のグラフ参照)。中国の外為市場は投機資金が入らない。そのため、昨年の取引高は九百七十二億ドル(ドル換算)しかなかったのに、外貨準備は六百九十億ドル増えた。外貨準備は言わば通貨当局の市場介入口座の残高だから、市場介入によってそれだけ米ドル(資産)を購入したということだ。取引高の七〇%が当局の介入という極端な現状は、現行レートでは需給が均衡しないことを如実に物語っている。

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