ブレア英首相が踏み入った“棘の道”

執筆者:土生修一2003年10月号

ケリー氏の自殺を機に始まった政府報告書の真相の究明。調査への全面協力を表明したブレア首相だが、国民の信頼は揺らぎ始めた――[ロンドン発]「空中の決断」が、トニー・ブレア英首相を苦境に追い込んでいる。 今年七月十八日、ワシントンから東京に向け飛行中のブレア英首相一行を乗せた英国航空特別機に、本国から緊急連絡が入った。デビッド・ケリー国防省顧問の自殺の報だった。 ケリー氏は、イラクでの査察経験もある生物・化学兵器の専門家。「イラクの大量破壊兵器に関する昨年九月の英政府報告書は、首相官邸の指示でイラクの脅威が誇張された」とのBBC報道の「情報源」として英メディアに名前が流れた人物だった。同氏は、七月十五日下院外交委員会に証人喚問され、「BBC放送の記者とは会ったが、情報源ではないと思う」と証言、その三日後に自宅近くで手首を切って死んでいるのが見つかった。 情報操作が事実なら、首相はウソをついて自国を参戦に導いたことになる。ブレア政権崩壊につながりかねない大スキャンダルだ。そのカギを握る人物が突然、自殺した。 特別機は、到着予定時刻になっても東京上空を旋回している。到着までに対応を決めたいと考えた首相が、着陸を遅らせたのだ。やがて、機内の同行記者団に、首相の決断が伝えられた。「独立調査委員会で真相を究明する。首相自身も証言台に立つ」。この決断で、英政界は、異例の「熱い夏」を迎えることになった。

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