“敵国”に電力を頼る米イラク復興の苦境

執筆者:木辺秀行2003年10月号

[アンカラ発]深刻な電力不足に直面しているイラクが周辺国からの電力購入に踏み切る。連合国暫定当局(CPA)と統治評議会による決定だが、注目すべきは売電するのがトルコのほか米国と対立するシリア、イランという点だ。 イラクの電力復興計画を担うのは「イラク電力委員会(IEC)」。米軍のホーキンス将軍を顧問役に米企業関係者も参加している。それが“敵国”であるシリア、イランとの契約交渉を認めているのだから、電力問題の深刻さが理解できる。シリア、イランはもとより、トルコもイラク戦争前に国会が米軍駐留を拒否した経緯からイラク問題での発言権を失いつつある。各国には電力供給で協力することでイラクへの影響力を残したい思惑があるようだ。 シリアは現在進められている交渉で、電力と引き換えにイラクの石油を得る見通しだ。シリアはフセイン政権時代、日量三十万バレルの石油をイラクから密輸入、転売していたとされる。これはシリアの石油輸出量が国内消費量を差し引いた生産能力を大きく上回ったことで明らかになった。 米国は四月にイラクからシリア向けの石油パイプラインの閉鎖を発表していたから、この再開を黙認する形にもなる。米国はシリアからのテロリスト流入を繰り返し批判してきた。対するシリアも米軍によるイラク占領に反発してきただけに、今回の間接的な「同盟関係」の奇妙さは際立っている。

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