シャロン首相の考える「和平案」とは

執筆者:村上大介2003年10月号

[カイロ発]混迷を深めるパレスチナ情勢で、イスラエルのシャロン政権が、アラファト・パレスチナ自治政府議長の「追放」を決定。オルメルト副首相は「議長殺害」も選択肢の一つとすら発言した。シャロン政権は二〇〇一年十二月に議長ボイコットを決めていたが、パレスチナ解放機構(PLO)議長でもあるアラファト氏がいよいよ自治区から追放されれば、一九九三年九月に調印されたオスロ合意に一貫して反対してきたシャロン首相は、オスロ合意後の現実を「合意以前」に後戻りさせることに成功することになる。 決定の背景にはもちろん、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスなど過激派のテロを止めることができない自治政府への、イスラエルの強い苛立ちがあった。 だが、シャロン政権の狙いは、ユダヤ過激派に暗殺された故ラビン・イスラエル首相とホワイトハウスで握手した合意のもう一方の当事者、アラファト議長をつぶすことにあり、パレスチナ過激派の連続テロへの報復や「アラファトは和平の障害」といった表向きの理由だけを見ていては、その真の意図を見誤ることになろう。 オスロ合意は過去三年に及ぶ衝突と戦闘ですでに完全に無効となり、米ブッシュ政権は新和平案「ロードマップ」を打ち出しているが、同案はパレスチナ側の当事者を規定していない。シャロン首相にとって、アラファト議長がヨルダン川西岸ラマラに存在していることは、自らが葬り去ったオスロ合意の「残滓」としか映っていない。

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