リップルウッドの意外な“低空飛行”

執筆者:杜耕次2003年11月号

日本進出以来最大となった日本テレコム買収を成功させたが、その資金力に陰りもみえて…… それまで淡々と進んでいた記者会見の場に一瞬、緊張が走った。「米国ではあなた方の脱税問題が取り沙汰されているが」「我々は会計事務所の指示に従ってきちんと処理していた。トラブルやスキャンダルといった類の出来事ではない」 記者の質問に大物の風格そのままに落ち着き払って答えたのは、国内固定電話第三位、日本テレコムの取締役会議長に就任することが決まったウィリアム・エズレー。十月一日、ホテルオークラで開かれた記者会見の席上である。 エズレーは紛れもない“ビッグネーム”。米通信大手スプリントの豪腕経営者として知られ、一九八五年のCEO就任以来、携帯電話事業への進出などで会社を急成長させた。冒頭のやり取りは、今年五月のCEO退任前から報道されていた過去のストックオプション(株式の選択購入権)行使に伴う脱税疑惑についてのものだ。 この話題の人物に白羽の矢を立てたのは、米投資会社リップルウッド・ホールディングスCEOのティモシー・コリンズ。リップルにとって八月二十一日に正式な株式譲渡契約を結んだ日本テレコムは、二千六百億円を超える日本進出以来最大の買収案件。コリンズの力の入り様は想像に難くない。

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