「投資機会は消滅しつつあるのではなく、企業が投資機会を利用し尽くしたり広げたりする誘因を欠くことに現代の問題があると、ケインズはみたのである」(間宮陽介『法人企業と現代資本主義』)     * 十月三日の朝刊各紙には、「任天堂が九月の連結決算で一九六二年の上場以来初の赤字に」との記事が掲載された。 一世を風靡したファミコンの後継機種として同社が力をいれている「ゲームキューブ」が、販売不振で不良在庫を抱えているうえ、最近の急激な円高によってドル資産で運用している手元資金の評価損が約四百億円発生することになったためである。 本業の不振と財テクの失敗。普通ならば企業が倒産にひた走る典型的なケースだ。だが、任天堂の危機はひと味ちがっている。逆説的だが、「それでもつぶれない」ことにこそ任天堂の危機の本質がある。日本のゲーム機市場を創出したファミコンの発売から二十年、そして花札・トランプ会社として株式公開してから四十年。昨年に退くまで五十二年の長きにわたって社長を務めた奇才・山内溥に率いられる「最も企業家精神に富んだ会社」は、気がつけば「巨額のお金がつまった袋」に転じていた。巨額のタンス預金 九月中間決算の赤字の主因となった為替差損は、会社側の説明によると五十億ドルを上回るという巨額な外貨建ての資金運用が原因である。五十億ドルと一口にいうが、円高の現在でも邦貨換算で五千五百億円だ。九月中間決算での半期の売り上げが二千億円規模の企業としては、運転資金や在庫リスクをまかなう規模をはるかに超えたキャッシュである。

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