「東北振興」から始まる重厚長大分野の再生

執筆者:遊川和郎2003年12月号

 中国が新たな経済振興の軸を打ち出した。東北など重工業地区の再興である。建国初期の老朽化した施設と技術、計画経済期の経営体制、大量の余剰人員という重工業地区に共通した課題に政策の焦点を当てる。今年に入り温家宝首相が三回も東北へ足を運び、九月の国務院常務会議に諮った後、十月の共産党中央委員会総会(三中総会)でも提起された。 一九九九年から始まった「西部大開発」は開発の遅れた四川省、陝西省、内モンゴル自治区など西部十二省市自治区へ資金を傾斜させ、インフラ整備や資源開発、産業育成、貧困撲滅等を図るものである。これに対し「東北振興」の狙いは、計画経済色の濃厚な重厚長大分野を市場経済に適応した産業として再生することであり、言い換えれば重工業分野へのてこ入れを通した地域振興だ。地域も東北に限定せず、これを例えば武漢など中部の工業都市再生のモデルにする。 重工業の中でも、特に機械設備、プラント産業の育成に重点が置かれている。これまで中国の重要プロジェクトには技術、信頼性の高い海外の設備が使用され、自主開発、国産化は遅れをとっていたからだ。今後予定されている大型インフラ・プロジェクトや電力、冶金、石油化学プラントには、国産技術の育成を図りながら、入札条件や税制、金融面など国内調達の支援策を打ち出す可能性が高い。また、日本の高度成長期同様、国の輸出信用供与など輸入から輸出産業への転換を積極的に後押ししていくものと見られる。来年から実施される増値税(付加価値税の一種)の還付率引下げでも、船舶、工作機械などは一七%に据え置かれ、輸出奨励の意図が明確になっている。

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