そのピノー氏、実はもう一つ、さらに頭の痛い問題を抱えている。十一月四日、PPR傘下のブランド企業「グッチ」から、同社を躍進させた立役者のドメニコ・デ・ソーレ社長(五九)と主任デザイナーのトム・フォード氏(四二)が来年四月に去ることが発表されたからだ。両氏はPPRと一年近くにわたって契約交渉を続けてきたが、経営を完全に掌握したいPPRと、独立性を保ちたい両氏との考えの差は最後まで埋まらなかった。ベルナール・アルノー会長率いるブランド複合企業、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンに対抗して、一大流通・ブランド企業を築こうとしたピノー氏にとっては大きな痛手だ。 グッチはデ・ソーレ、フォードの二人三脚体制で、営業利益率二五%という驚異的な効率経営を続けてきた。スタッフの大半も両氏を慕って入社しており、「人的財産がすべてのブランド企業にとって二人の流出は致命傷」と見るファッション関係者は多い。グッチの主任デザイナーの後任には、同じグッチ・グループ内で働くアレキサンダー・マックイーン(元ジバンシイのデザイナー)らの名前が挙がっているが、「売れる物を作れるのもデザイナーの才能の一つ」と公言していたフォード氏の領域に近づけるかは未知数だ。

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