カスピ海周辺諸国に「世襲の波」

執筆者:2003年12月号

天然資源が生み出す富を独占した支配層の腐敗は著しい。アゼルバイジャンの二世大統領誕生が“負のインパクト”を拡散させる。[モスクワ発]カスピ海周辺の旧ソ連諸国で「権力の世襲」を確立する動きが相次いでいる。日米欧中が新たな原油・天然ガスの供給源として注目し、資源争奪戦を展開する地域だが、各国政権の強権体質は強まるばかり。民主化の遅れは地域の安定を揺るがす危険がある。「ヘイダル・アリエフ(八〇)=第三代大統領=の路線を継承する」。十月三十一日、アゼルバイジャンの首都バクーで開かれた大統領就任式で、イスラム教の聖典「コーラン」に手を置いたイルハム・アリエフ(四一)はこう宣言。旧ソ連圏で初めて父から子へ国家元首の世襲が実現した。 同国の中央選挙管理委員会の集計結果によると、十月十五日に投票が実施された大統領選挙でイルハムの得票率は七六・八%と過半数の当選ラインを大きく超えた。対抗馬と目された民主派野党ムサワトのイサ・ガムバル党首の得票率は一三・九%にとどまり、イルハムが圧倒的な勝利を収めたことになっている。 しかし、アリエフ一族と側近グループが独裁色の強い支配体制を固めたアゼルバイジャンで、中央選管が大統領選で中立を守ったと見る向きは少ない。投票前、カフカス情勢に詳しいロシア誌「ノーボエ・ブレーミャ」のワジム・ドゥブノフ副編集長は「公正な選挙が行なわれれば、決選投票に持ち込まれるのは確実。だが政権側は野党を結束させるようなリスクは避けるはずだ」と予測した。

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