騒音のないところに行きたい

執筆者:成毛眞2004年1月号

 数年前、山中湖の別荘地に山荘を作った。冬にはスキー、夏にはスノーボードの水上版であるウェークボードをするので、富士五湖には愛着があったからだ。山林の別荘地といっても借地。もともと将軍家のお狩り場だったらしく、現在の地主は国である。 地元企業の富士急が管理しているためか、全体の手入れは行き届いている。日本最古のパブリックコースである富士ゴルフコースにも近い。その昔は石原軍団も各自別荘を構えていた。 しかし、世情が物騒になるにつれて、最近は山荘への足が遠のいた。なにも強盗や空き巣が増えたというのではない。お隣の警備が極めて厳しくなったからだ。ここはある大手印刷会社の保養寮なのだが、警備会社の代わりに番犬を利用するという古風な管理。以前は二頭ほどが敷地の角に繋ぎっぱなしにされ、不審者に吠え掛かっていただけなのだが、最近ではさらに二頭が加わり、あらゆる動くものに四頭立てで吠え掛かる。おそらくウィークデーは別荘地利用者も少ないから問題はないのだろうが、土日ともなると夜明けから深夜まで怒号は絶え間ない。 呆れて思わず観察していると、件の印刷会社社員が利用している風もない。それも当然で、東京ですらこれほどうるさい場所などそうあるわけもないのだ。犬は泥まみれで、保養寮から出る残飯だけで生きているらしい。なるほどコスト削減の一環なのだろう。しかし、近隣からは「犬屋敷の印刷会社」として悪評紛々である。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。