国民党の躍進はむしろバランス感覚のあらわれ。「政治の安定」を願うスイスの伝統は変わらない。[ジュネーブ発]十二月十日午前、スイスの国民はテレビの生中継に釘付けになった。この日、首都ベルンの連邦議会で開かれた両院総会で、七人の閣僚を選ぶ選挙が行なわれた。焦点は外国人の入国規制強化など過激な発言で「極右」扱いされる下院議員のクリストフ・ブロッヒャー国民党(SVP)チューリヒ支部長が入閣するかどうか。閣僚は毎年輪番で大統領を務めるため、同氏が入閣すれば、四年の任期中に「スイスの顔」になる可能性があるからだ。 スイスでは一九五九年以来、四大政党が代表を閣僚に送る「マジック・フォーミュラ(魔法の法則)」と呼ばれる体制を維持してきた。中道右派の自由民主党(急進党、FDP)とキリスト教民主党(CVP)、中道左派の社会民主党(SP)、それに国民党がそれぞれ、二、二、二、一のポストを分け合ってきた。スイスの閣僚選挙は七つのポストを別々に投票する。これまで与党四党の事前の折衝で割り振りが決まるケースがほとんどだったが、今回は様相が大きく違った。十月十九日の総選挙で第一党になった国民党が二人目のポストを要求、ブロッヒャー氏を候補にしたのだ。閣僚選挙ではキリスト教民主党の女性現職閣僚ルート・メッツラー女史と激突、与党同士で席を争うことになった。

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