十戦十勝ほど怖ろしいものはない。一勝九敗だからこそ、ひとつの成功に深みがある……こう書くのは柳井正氏。日本のカジュアルウェアの歴史を一変させた「ユニクロ」の創業者は、初の著書『一勝九敗』で、その成功と失敗の本質を明快に説いている。――この本には、柳井さんの経営思想、仕事観、企業人としての原点や失敗談が非常に率直に描かれていますが、なぜ本という形でまとめられたのでしょうか。柳井 僕自身が本好きだからですね。本というのは想像力をかき立てるし、そこに対話がある。読んだ人が自分で考えるには本が一番いい。何より安くて、持ち運べます。講演やインターネットでは一過性になってしまいます。――「チェーン展開を本格的にやるために、単なる商売好きから経営者に生まれ変わらなくては、という思いがつのる」。株式上場を決意されたのは一九九一年でしたが、印象的な箇所です。柳井 自分の好みのカジュアル衣料を売るという毎日の商売は楽しかったし、利益も出ていました。しかし、会社の規模も大きくなり、個人の資産ではまかない切れなくなった。失敗すれば、他人に迷惑をかけることにもなる。税制の問題もあり、株式上場しなければ企業として永続できない所に来てしまったのです。山口県宇部市にいたので、とにかく本を読んで経営を勉強するしかなく、ドラッカーや松下幸之助や本田宗一郎の言葉を自分流に読んでいました。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。