見えない訪問者

執筆者:西川恵2004年1月号

“見えない訪問者”(the invisible visitors)と英紙は書いた。ブッシュ米大統領夫妻が二〇〇三年十一月十九日から二十一日まで行なった英国の国賓訪問のことである。本来、国賓訪問は国を挙げて歓迎するイベントだが、テロを警戒し、一般市民との交歓は全面的に省かれる異例の訪問となった。 十八日夜、チャールズ皇太子の出迎えを受けてヒースロー空港に到着したブッシュ大統領とローラ夫人は、ヘリコプターで宿舎となるバッキンガム宮殿に直行した。 十九日朝、歓迎式典が宮殿で行なわれた。本来、国賓の式典はロンドン市内の陸軍総司令部前で行なわれるのが慣例で、ハイライトはバッキンガム宮殿までの馬車パレードである。エリザベス女王と国賓が、沿道の人々の歓迎に手を振って応えるのだが、これも中止。狙撃を警戒し、市内の移動も大統領専用の防弾車キャデラックで猛スピードで走り去った。 米大統領が英国を国賓として訪問したのは史上初めて。一般的な公式訪問と違い、元首同士が両国の友好を誓う華やかな国賓訪問は儀式性が高く、両国民に友好をアピールする機会でもある。エリザベス女王は即位以来、三回、米国を国賓訪問しているが、米側の訪問がなかったのは「贅沢な歓迎を望まなかった米側の事情」(バッキンガム宮殿)という。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。