日墨FTA交渉が進まない本当の理由

執筆者:藤原章生2004年2月号

[メキシコシティー発]「ご心配なく。今回は何も成立しませんから」。昨年十月、メキシコのフォックス大統領の訪日直前、ある大統領顧問は日墨(メキシコ)自由貿易協定(FTA)調印の見通しをこう語った。その数カ月前には「一刻も早い調印を」と、メキシコはどちらかと言えば日本側を押す形で交渉を進めてきた。だが、昨年半ば頃を境に、その足取りは随分と悠長なものになった。 フォックス大統領は訪日前の邦人記者団との会見で「拙速は良くない。時間をかけてでも完璧な合意内容にしたい」と語り「公平かつ均衡の取れた」という言葉を四回も繰り返した。品目別の無関税枠といった「関税撤廃の例外」を米国との間で設けなかった一九九四年発効の北米自由貿易協定(NAFTA)がフォックス氏の頭にあったのかも知れない。すでに三十余国と協定を結んでいるメキシコだが、実際に効果が出ているのはNAFTAくらいだからだ。 コカ・コーラ社のメキシコ社長を務めた経験からかフォックス氏の話は新製品の売り込みのように聞こえる。日産やトヨタの投資額を示しながら「我々も見返りとして日本の豚肉や野菜市場に食い込みたい」と、懸案の豚肉などについて随分と細かな説明をする。

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