総統選のキャスティングボートを握る者

執筆者:早田健文2004年3月号

再び相まみえる陳水扁総統と国民党の連戦主席。両候補への支持は伯仲し、次の台湾の指導者が誰かは混沌としている。[台北発]「中国の武力的圧力さえなければ、本当はどちらが当選してもかまわないのです」 こう語るのは、四十歳代の女性だ。誰が総統に当選するかで中国の台湾に対する態度が変わる。これが台湾の有権者の認識であり、投票行動を決定する。 台湾の選挙で毎回繰り返されるのが、「台湾独立」「中国統一」どちらを選ぶかの論争だ。今回の総統選挙でも主要な争点はここにある。 総統選挙は三月二十日が投票。戦後続いてきた国民党支配を前回の二〇〇〇年の選挙で倒した民進党の陳水扁総統(一九五一年生れ)が再選を目指す。これに対して政権を失った国民党の連戦主席(三六年生れ)が再起を図る。陳水扁は独立派、連戦は統一派と位置付けられ、この二人の一騎打ちとなる。 陳政権誕生後、陳水扁の支持率は一時八〇%にまで達した。国民党の腐敗を一掃し、台湾に明るい未来をもたらしてほしいという期待からだ。しかし、陳政権が直面したのは、米国のIT不況の煽りを受けた経済の失速だった。台湾が世界に誇るIT産業に対する打撃は大きく、政権発足の翌年、経済成長率は一・九一%のマイナスに転落、失業率は五%を超えた。そして皮肉なことに、独立派政権下の台湾で中国への産業流出が加速した。その流れはハイテク分野にまで及び、台湾のIT産業は中国に追い抜かれた。

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