ラーメン2食付きの本

執筆者:成毛眞2004年3月号

 友人から新刊本が届いた。なんと厚みが七センチもある大物である。それもそのはず、ラーメン二食付きの本なのだ。表紙の帯にあたるところには「読んでから食べるか。食べてから読むか」の文句。角川書店が発売しているのだから、けっして自費出版の類ではないのだが、ある意味で稀覯本だ。『「竹家食堂」ものがたり』。小説仕立てのこの本は、大正期に北大正門前で商いをしていたという竹家食堂がいかに「ラーメン」を生み出したかを辿っている。当時「チャンコロそば」と蔑まれていた名称に心を痛めていた店主が、中国語の出来上がったよという「好了(ハオラー)」のラーを取ってラーメンと名付けたというのである。 中華の料理人を題材にした作品としては吉永みち子が四川料理の陳建民を題材に『麻婆豆腐の女房』を書いている。NHKでドラマ化され、武田鉄矢の好演に泣いた人もいるだろう。しかし、本書はけっしてその二番煎じではない。私の友人である企画者は昭和六十一年からこのテーマに取り組み、取材を続けていたからだ。 その友人とは北海道で年間に一億食以上の麺を製造している大手製麺会社「菊水」の経営者、杉野邦彦。高校の同級生である。家業のラーメンのルーツを探っているうちに竹家食堂に行き着いた。病膏肓二十年。当時の麺の復刻版を作る。どんぶりも復刻する。勢いあまってラーメンの故郷に錦を飾ろうと、大連にラーメン店まで出店する始末。その顛末も記録しておこうと、ついにラーメン付きの本を出したというわけである。

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