日本人の間に身を潜めていた大物国際テロリスト

執筆者:竹田いさみ2004年3月号

 東南アジアの広域テロ集団「ジェマー・イスラミア(JI)」の最高幹部・通称ハンバリが昨年八月、タイの古都アユタヤで逮捕された現場は、日本人コミュニティーのど真ん中であった。ハンバリ(本名リドゥワン・イサムディン)はJIの軍事作戦グループを率いるリーダーで、一昨年十月のバリ島爆弾テロ事件を計画したテロリストとして、アメリカやオーストラリアの情報機関が捜し求めていた人物だ。まさかJI幹部が日本人コミュニティーの中にいるとは、だれも想像していなかったであろう。アユタヤで逮捕された事実は広く報道されてきたが、その生活環境に関しては意外と知られていない。ハンバリが住んでいたマンションは、日本人の長期滞在者専用レジデンスの隣であった。 ハンバリが雑然としたバンコクではなくてアユタヤを選んだ第一の理由に、「地の利」を挙げることができる。アユタヤはバンコクから北へ七十五キロ、高速道路を使えばバンコク国際空港まで一時間以内の地点にある。車を飛ばせば四十分前後で空港に到着でき、海外への脱出に極めて便利だ。バンコク市内は車の渋滞で知られ、移動時間を読むことは甚だ困難である。しかしアユタヤから国際空港までなら、ほとんど車の渋滞はなく、海外へ脱出する時間をほぼ正確に読むことができる。しかも、ハンバリのいた地区は、幹線道路から入り込んだ、目立ちにくいところだった。

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