“聖域”を開放するほどの歓待

執筆者:西川恵2004年3月号

 下にも置かない歓待とはこのことだろう。一月二十六日から三日間、中国の胡錦涛国家主席を国賓で迎えたフランスのことである。 昨年六月のエビアン・サミット(主要国首脳会議)でフランスを訪れている胡主席が、アフリカ歴訪の途中とはいえわずか七カ月後に再訪した背景にはフランスの強い要請があった。ドゴール元大統領が他の先進国に先駆けて中国と国交を結んで今年で四十年。中国の旧正月期間中の国交樹立の一月二十七日に胡主席を迎え、両国関係を強化したい狙いがフランスにあった。イラク戦争後の外交守勢を挽回し、構想する多極化に布石を打つ絶好の機会でもあった。 両国の外交関係は緊密だ。昨年四月の中国の新型肺炎SARS騒ぎの中、躊躇する他国首脳を尻目にラファラン仏首相が訪中。八九年の天安門事件以来、対中武器禁輸措置をとる欧州連合(EU)に解禁を訴えているのもフランスだ。 胡主席を迎える環境作りも周到だった。直前の二十四日の土曜日、七月十四日のパリ祭並みにシャンゼリゼ大通から車を締め出し、中国の旧正月を祝うパレードに開放。中国系フランス人や中国から派遣された歌舞団が華麗な踊りや龍の舞を見せ、大通は見物人で埋まった。胡主席の滞在中、エッフェル塔は中国国旗と同じ赤い色にライトアップされた。これまで限られた首脳しか行なっていない国民議会での演説の場も用意された。

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