情報の「こちら側」と「あちら側」を考える

執筆者:梅田望夫2004年4月号

 特にここ二年くらいだろうか。情報技術(IT)産業における日米の関心が明らかに違う方向を向いたな、と感ずることが多くなった。日本はインターネットの「こちら側」に、米国はインターネットの「あちら側」にイノベーションを起こそうとしている点が、その違いの本質ではないかと思う。 インターネットの「こちら側」とは、インターネットの利用者、つまり私たち一人一人に密着したフィジカルな世界である。携帯電話、カーナビ、コンビニのPOSシステム、高機能ATM、デジタル三種の神器(薄型テレビ、DVDレコーダー、デジカメ)、そしてこれからは無線ICタグ。皆、インターネットと私たち一人一人を結びつけるインターフェース部分にイノベーションを求めるものだ。そしてこれらが、モノづくりを中心とした日本企業の従来からの強み、そして消費者としての日本人の嗜好ともうまく合致したため、日本は世界の最先端を疾走することになった。一方、この領域における米国の遅れは目を覆うばかりである。 インターネットの「あちら側」とは、インターネット空間に浮かぶ巨大な「情報発電所」とも言うべきバーチャルな世界である。本欄でここ二回にわたって詳述したグーグルをイメージしていただければいい。いったんその巨大設備たる「情報発電所」に付加価値創造のシステムを作りこめば、ネットを介して、均質なサービスをグローバルに提供できる。グーグル、アマゾン、イーベイ、ヤフーといった米国ネット企業群による「あちら側」のイノベーションは、手触りのある「こちら側」のイノベーションと違って目に見えない。それだけに何が起きているのかが掴みにくい。しかし米国では、コンピュータサイエンス分野のトップクラスの連中は皆、その才能の活かし所を「あちら側」での「情報発電所」の構築と見定めたようで、この領域は米国の独壇場となっている。

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