アメリカは「戦争目的」を見失ったか

執筆者:田中明彦2004年6月号

9.11事件から2年半たった現在、世界は依然として「対テロ戦争」という世界戦争を戦っている。その主戦場となったイラクの情勢を、国際社会はどう評価すべきなのだろうか。 六月末に予定されている主権移譲を前に、イラク情勢は緊迫の度合いを強めた。多くの日本人にとっては、これは日本人人質事件として示されたが、人質事件はその一面を劇的に示したにすぎない。ファルージャやナジャフにおけるアメリカ軍と武装抵抗勢力との間の戦闘激化こそが、その背景において、極めて重要な意味を持っていた。 一方、東アジアでは、朝鮮半島をめぐる動きが依然として不透明である。二月に二回目の六者協議が行なわれたが表立った前進はみられなかった。金正日の中国訪問や、彼の帰国直後の列車事故をめぐる人道支援などが、今後の情勢にどのような影響を及ぼすかも定かでない。さらに、拉致問題をめぐる日朝交渉も本稿執筆時点では結果は明らかでない。 その他世界情勢としては、EU(欧州連合)に、かつての東欧諸国が加盟した。この大欧州の成立がいかなる意味を持つか、にわかには見極めがつきにくい。また、ロシアではプーチン大統領が再選されたし、十一月にはアメリカで大統領選挙がある。

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