拡大EUと米国の影

執筆者:渡邊啓貴2004年6月号

二十五カ国体制となったEUはどのように変わっていくのか。その“ヨーロッパ・アイデンティティー”が揺らぎ始めた―― EU(欧州連合)は五月一日に十カ国の新加盟国を迎え、第五次拡大を達成した。その日、議長国アイルランドの首都ダブリンでは二十五カ国の代表が集まって盛大な式典が開催された。また、ドイツ・ポーランド・チェコの三国が交わるナイセ川上流岸で三国の首相が握手を交わし、橋を渡った光景は象徴的だった。英ガーディアン紙は「新しいヨーロッパにとって拡大は冷戦の決定的終焉を意味する」と論評した。四億六千五百万人に及ぶ人口と、日本の約二倍に相当し、米国に比肩するGDP(域内総生産)八兆二千五百億ドル(二〇〇一年、米国は十兆一千億ドル)の経済力を擁する東西の隔たりを越えた拡大EUは、世界市場において大きな存在となることは間違いない。 今回のEU拡大の最大の特徴は、それが旧社会主義圏の中・東欧に及ぶことである。冷戦終結直後、経済社会格差や慣習の違いのあるこれら諸国への拡大はミッテラン仏大統領の反対によって実現しなかった。その後、九四年後期の議長国で、中・東欧諸国と結びつきの深いドイツが東方拡大を積極化させ、今日の道が切り拓かれた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。