三十六億人が見るインド映画の影響力

執筆者:境分万純2004年6月号

年間八百本もの映画を制作する映画大国インド。その作品はアジアのみならず欧米にも市場を広げている。 春から初夏にかけて、今年のインドは少なくとも三倍暑い。政治・クリケット・映画という、国民が熱中する三大トピックが絡み合うイベントが相次いでいるからだ。 四月中旬までの一カ月間は、パキスタンで印パ親善のクリケット試合が行なわれ、インド人も熱狂した。一月の南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議で印象づけた両国の友好親善ムードは最高潮の感がある。そして四月末から五月中旬にかけては下院の総選挙があった。上昇気流の経済を背景に「輝けるインド(India Shining)」のスローガンを掲げる与党インド人民党や、最大野党の国民会議派は、国民の人気が高いボリウッド映画人への出馬要請や協力依頼に躍起となった。 ボリウッドとは、インド第一の商都ムンバイの旧称「ボンベイ」と「ハリウッド」を合わせた造語だ。多言語国家ゆえに映画も多くの言語で作られるが、主流は最も話者人口が多いヒンディ語による映画である。中でも商業娯楽映画(伝統芸能様式にのっとりミュージカルが挿入される)の中心地がボリウッドである。 インドが米国の約二倍、年間八百本から九百本を生産する映画大国であることは、日本でもある程度知られている。だが、ここ数年のボリウッドはかつてないほど大規模な変容の渦中にある。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。