[モスクワ発]ロシアのプーチン大統領が内憂外患に頭を痛めている。ロシア南部チェチェン共和国のカディロフ大統領が五月九日、対独戦勝記念式典で起きた爆弾テロで死亡した。この親ロシア指導者暗殺によりチェチェン紛争はいっそう視界不良となった。同じく行き詰まっているのは、意外にも対欧州外交である。欧州連合(EU)二十五カ国体制の発足について、プーチン大統領は「将来の統一大欧州に向けた布石にすべきだ」と容認する姿勢を示した。だが、中・東欧諸国やバルト三国を含む拡大EUの誕生が、ロシアにとって大きなマイナス面を伴うことは事実で、ロシア側で不満がくすぶっている。 これまでロシアとの経済的結び付きが強かった中・東欧のEU新規加盟国は、EUのルールに沿って関税引き上げなどを行なう。ロシア経済発展・貿易省は、そうした措置によってロシアが年間約三億ユーロ(約四百億円)に上る経済的損失を被ると試算する。また、これらの国々に入国するには、EU域内の通行、滞在を規定したシェンゲン条約に基づくビザ(査証)の取得が新たに義務付けられる。ロシア人渡航者の減少は避けられない見通しだ。 さらに、ポーランドとリトアニアに挟まれたロシアの飛び地カリーニングラード州は、EU域内に浮かぶロシアの孤島となり、ロシア本土との人とモノの往来が制限される不安がある。バルト三国でのロシア人差別問題も、三国のEU加盟によって解決が遠のくとの懸念が生まれている。

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