四月十四日午後、モスクワ。 クレムリンを訪れた森喜朗前首相はプーチン大統領と四十五分間の会談を持ち、時間の多くを北方領土問題に費やした。正式な政府間交渉ではなかったが、前首相には四月にお忍びで訪日した大統領の娘の世話を焼いた縁があり、出発前日には官邸に寄って小泉首相の意向を受けての訪露となった。 プーチン大統領の再選から一カ月。「北方領土がロシア内で政争の具にされぬよう、返還交渉は大統領が強力な政権基盤を築いてから」という日露関係者の一致した認識が実現し、再選以来、日本人政治家として初の会談は本格的な交渉の第一歩となるはずだった。「私たちの関係の発展を妨げている全ての問題を取り除くべきだ。問題は複雑だが、本当にこの問題を解決したいという決意がある」 プーチン大統領が示した強い意欲に日本側は胸を躍らせたものの、「(解決方法については)ロシアでも日本でも受け入れられるような方法で解決していかなければならない」と釘を刺され、進展なし。しかも、小泉首相の意向として早期訪日を要請したところ、「六月のシーアイランド・サミット、十一月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で会うことになる。よく検討したい」といなされ、抱いていた期待と裏腹に厳しい現実が露呈した。大統領の年内訪日を前提に組み込んでいた日本側の戦略は、のっけから狂ったかに見える。

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