[モスクワ発]ロシア南部のチェチェン共和国では、親ロシア派のアフマド・カディロフ大統領が五月九日暗殺されたことを受け、八月二十九日に新指導者を選出する大統領選挙が行なわれる。だが、次期指導者の有力候補と目されていた人物たちがすでに相次ぎ辞退した。この異常な事態は、親ロシア派チェチェン人によって紛争を終結させるというクレムリンの和平戦略が苦況に置かれていることを如実に示している。 チェチェンでは六月九日までに、六人が立候補を届け出た。モスクワが拠点の巨大コンツェルン総裁や元チェチェン大統領補佐官といった人物たちだが、チェチェンでの知名度や力量は今ひとつ。クレムリンの合意も得ていない。 こうした中、大統領の死後、大統領代行を務めるセルゲイ・アブラモフ氏(三二)や、プーチン大統領のチェチェン問題担当補佐官を務めるアスランベック・アスラハノフ氏(六二)は、選挙には出馬しないと早々と表明した。「チェチェンの現状をよく理解している人は、チェチェンの指導者になろうとは思わない。すぐ殺されてしまうからだ」。ロシア政府に近い筋は、候補者選びの苦悩をこう説明した。 カディロフ氏の警護隊長を務めていた息子のラムザン氏(二七)は、大統領の資格を三十歳以上と規定したチェチェン憲法の制約があり、今回は出馬できない。だが、同氏は「大事なのは父親が実現しようとした政策を継承してくれるチームができることだ」とクギを刺し、暗殺された大統領に近い共和国政府のアル・アルハノフ内相(四七)がカディロフ派の「最もふさわしい候補だ」と強く後押しした。

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