集票目的外交の罪

執筆者:2004年8月号

 どう否定してみても、いや否定すればするほど怪しかった。インドネシアのジャカルタでの拉致被害者の曽我ひとみさん一家の劇的な対面シーンは、二日後の参院選のための演出だったのではないか、という疑いは消えない。小泉純一郎首相の指示で、北朝鮮側に土下座せんばかりに「お願い」した外務省の努力にもかかわらず、選挙の結果から見ればさほどの効果はなかった。あの再会劇がなければ、自民党はもっと惨敗していたのかもしれないが、結果は四十九議席で、「五十一議席確保」という大目的達成のためには、それほど役には立たなかった。 それにしても、という思いが消えない。「人道」という反対しようのない美しい言葉に包まれたこの再会劇、どこかおかしくはないか。米国の脱走兵を日本政府がチャーター機で北朝鮮へ迎えに行き、ジャカルタまで運んだ。北朝鮮側の「指導員」三人も同乗してジャカルタまで行ったというから、ますます首を傾げざるを得なくなる。しかも外務省高官直々にジェンキンス軍曹を迎えに行ったのである。米国はジェンキンス軍曹について「脱走」「脱走教唆」「利敵行為」「利敵行為の奨励」の四つの罪で訴追対象にしている。同盟国日本としては、米国から求められればジェンキンス軍曹の身柄を引き渡さざるを得ない。ジェンキンス軍曹は軍法会議で裁かれることになる。

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