インドと米国の関係は、二〇〇一年秋の米側による経済制裁の解除以来、親密の度を増しているが、その蜜月に冷水を浴びせかけるスパイ疑惑が持ち上がった。 六月、インドの対外諜報機関RAW(研究分析連隊)のラビンダ・シン次長が米国に逃亡した。インド当局によるスパイ容疑での逮捕が目前に迫っており、シン次長は米国のパスポートを携えて、ネパール経由で出国したという。 同次長はパンジャブ州の地主階級の出身で、RAW入り以前は陸軍で少佐まで務めていた。血縁者の中に、米国籍を持ち、二十年以上にわたって米国際開発局(USAID)に勤務する者がおり、この人物が米国との接点役だったと考えられている。諜報の世界では、USAIDは米中央情報局(CIA)の隠れ蓑とされることが珍しくない。 米国は七月、ボーイング社の関連企業がインド宇宙研究機関と共同で計画する通信衛星事業を認可している。両国の協力は軍事転用も可能な技術分野にまで拡がり始めたわけだが、これと前後するようにスパイ事件が起きた。ニューデリーには米国に対する疑心暗鬼が広がっている。

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