中東―危機の震源を読む (90)

「シリアをめぐる闘争」の激化は再び「東方問題」を呼び覚ます

シリアをめぐる闘争

 シリアとイラクをめぐって、水面下での交渉が動き始めている。ロシアが9月30日に開始した対シリア軍事介入は、現地の諸勢力と地域大国や域外大国・超大国による、複雑な外交駆け引きと関与競争を引き起こしている。シリアやイラクの中央政府や民兵集団、クルド人やトルクメン人勢力などの現地の諸勢力と、トルコ、イラン、サウジアラビアなどの地域大国が、米・露の域外大国を引き寄せながら、それぞれの利益を追求する。イスラエルやカタールなども、ピンポイントで重要な役割を帯びる。

 11月14日にウィーンで開かれた「シリア国際支援グループ」の国際会議では、2016年1月1日を目処に和平交渉を開始し、6カ月以内に挙国一致内閣を成立させ、新憲法を制定して18カ月以内に自由で公正な選挙を実施する、というタイムテーブルをロシアは掲げてみせた。これに米国は歩み寄りの姿勢を見せ、米側陣営のトルコやサウジアラビアが、それぞれに対「イスラーム国」の方策を取りつつ、影響下にあるシリアの反体制勢力や武装集団を統御して和平交渉の席に着かせることを求める。米露は、12月18日近辺に、ニューヨークでシリア関係国会議を開催し和平交渉の立ち上げに向けて弾みをつけることを模索しているが、米国に「見捨てられる」との危機感を強めるトルコやサウジアラビアは、自立化・独自路線を強めており、従順に従うとは考えられない。

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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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