やっぱり残るは食欲
やっぱり残るは食欲 (49)

アラウンド ザ 中華

執筆者:阿川佐和子 2021年10月16日
カテゴリ: カルチャー
エリア: アジア
中華料理は大人数でワイワイ食べるからこそ記憶に残るのかも(写真はイメージです)

 今と違い、私が子供の頃はファミリーレストランなどというものがなかったので、家族で外食をするとなれば、もっぱら向かうのは中華料理店であった。

 もうあちこちに何度も書いたエピソードではあるが、小学一、二年生のときの誕生日、父に「何が欲しい?」と聞かれ、いつになく優しい父の言葉に動揺した私が「何がいいかな、何がいいかな」とぐずぐず迷っているうちに、「よし、中華料理を食べに行こう」と決まった。がっかりしつつも、なんたって私のためのお祝いである。家族一同、和やかに店で食事を済ませた。そこまではよかったが、会計を済ませ、店の外に出たとたん、私が「寒い!」と呟いたのがいけなかったらしい。時節は十一月の初め。幼い子供が北風に反応したからといって責められる理由はないと思うが、父にはそう聞こえなかったようだ。

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執筆者プロフィール
阿川佐和子 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』(新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
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