ロシアのウクライナ侵略はどのように終わるのか:交渉による和平合意か、プーチンの侵略の継続か(下)

執筆者:相良祥之 2022年3月16日
エリア: ヨーロッパ
ボスニア内戦のように停戦を機に民間人の虐殺が進んでしまうこともある(3月15日、キーウ) (C)EPA=時事
戦争終結そして和平合意の締結に向けての交渉は、2015年2月の「ミンスクII」が下敷きになるだろう。ただし侵略の終わり方は、プーチンの意図を最大のドライバーとして、政権基盤の変化や経済制裁の効果、あるいは西側諸国との交渉の行方などに大きく左右されてくる。楽観シナリオ及び悲観シナリオとその5つのパターンから、今後の展開を考察する。(この記事の前半は、こちらのリンク先からお読みいただけます

楽観シナリオ:交渉による和平合意

 ウクライナ侵略にこれから起こり得るシナリオのうち、もっとも楽観的なものは、ウラジーミル・プーチン大統領が経済制裁の痛みや中長期的な展望の暗さを合理的に判断し、どこかのタイミングで侵略を中止し、和平交渉が進展するシナリオである。

 経済制裁とは、相手国の方針の転換をはかるため、経済的な痛みを与える政策である。ウクライナ侵略をめぐる対ロシア制裁は、その対象の広範さと迅速さにおいて、過去に類を見ない強烈なものである。米欧日を中心に約40カ国が緊密に連携し、ロシア中央銀行および主要な金融機関を制裁対象とし、SWIFT(国際銀行間通信協会)排除により世界の金融システムからほぼ孤立させ、ロシアがコツコツと積み上げてきた米欧日の外貨準備を凍結し、プーチン大統領とその側近、さらにプーチンを支援してきたオリガルヒ(富豪)の海外資産も差し押さえた。半導体など先端技術やエネルギー関連の輸出規制も進んでいる。その結果、ルーブルは暴落し、インフレが昂進、国内ではATMに人々が殺到し取り付け騒ぎが起きている。モスクワ証券取引所は2週間以上、閉鎖されている。開いた瞬間に破綻することが懸念されているからである。ロシアではVISAやマスターカードなど主要クレジットカードブランドの決済ネットワークが使用不可となった。企業や投資家も続々とロシアから逃げ出している。デフォルト(対外債務の返済不履行)は間近に迫っていると見られている。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
相良祥之(さがらよしゆき) 公益財団法人 国際文化会館 アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)主任研究員。1983年生まれ。研究分野は外交・安全保障政策、経済安全保障、制裁、国際紛争、健康安全保障。民間企業、JICAを経て国際移住機関(IOM)スーダン(2013-2015)、国連事務局政務局 政策・調停部(2015-2018)、外務省アジア大洋州局北東アジア第二課(2018-2020)で勤務したのち現職。著作に『新型コロナ対応・民間臨時調査会(コロナ民間臨調)調査・検証報告書』(共著、2020年)など。国連ではニューヨークとスーダンで勤務しアフガニスタンやコソヴォでも短期勤務。東京大学公共政策大学院修了。ツイッター:https://twitter.com/Yoshi_Sagara
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