サハリン・プロジェクトと日本の生き方:法と信義を貫くことにより日本の立場と主張を世界に示すべき

執筆者:森本 敏 2022年8月9日
サハリン2を運営する新会社は8月5日付で設立された[写真はプーチン大統領=8月3日](C)EPA=時事/SPUTNIK
ロシアのサハリン2接収の動きに対し、あくまでにも法に基づく正当性をもって応じることは、エネルギー問題を超えて日本の生き方、国家としての「戦い方」を国際社会に示すことに繋がっている。相手の軍事力を見て威嚇しながら対応を決めるというロシアの自己本位的な姿勢が剥き出しになったいま、日本はエネルギーの自立性を高める一方で北方地域における警戒監視能力を格段に向上させなければならない。

 国家であれ個人であれ、社会の中に存在していく際、守るべき「すべ」は規範と信義である。規範とは法に基づく秩序を重んじることであり、信義とは信頼と誠意に基づいて行動することである。この「すべ」を尊重しない国家や個人は社会の中で尊敬を受けないどころか、いずれは他から疎外される結果となる。

 今日の国際社会が混迷と混乱に満ちた状況になっているのは、世界の軍事大国であるロシアと中国が自己の利益と目標を追求するあまり、この「すべ」を無視して自己中心的な行動を広げているためである。ただ、ロシアと中国の違いは、中国はこの「すべ」をある程度は守って今までのところ直接の軍事力行使を控えめにしているが、ロシアはこの「すべ」を守るどころか自制心を失い、我慢できなくなって全面的な軍事力行使に走っているところにある。

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執筆者プロフィール
森本 敏(もりもとさとし) 拓殖大学顧問、元防衛大臣(第11代)。防衛大学校理工学部卒業後、防衛庁入省。昭和52年に外務省に出向後、昭和54年外務省入省。在米日本国大使館一等書記官、情報調査局安全保障政策室長など一貫して安全保障の実務を担当。専門は安全保障、軍備管理、防衛問題、国際政治。退官後、慶應義塾大学、中央大学、政策研究大学院大学などで教鞭を執る。平成12年より拓殖大学所属。平成28年3月から令和3年3月まで同大学の総長を歴任、令和4年4月に同大学の名誉教授称号授与。令和3年4月から同大学の顧問を務める(現職)。平成21年8月初代防衛大臣補佐官、平成24年6月防衛大臣(民間人初)、平成27年10月から平成30年10月の間で防衛大臣政策参与を務める。著書に『オスプレイの謎。その真実』『日本の瀬戸際―東アジア最大の危機に日本は生き残れるか』など、共編著に『台湾有事のシナリオ:日本の安全保障を検証する』『次期戦闘機開発をいかに成功させるか?』『新たなミサイル軍拡競争と日本の防衛』など多数。
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