新・日本人のフロンティア (17)

インド洋での友好と連携を――マダガスカルとモーリシャス(下)

執筆者:北岡伸一 2022年8月24日
タグ: 日本
エリア: アジア アフリカ
「JICAチェア」で講義する筆者(左から2人目)(JICA提供、以下同)
小さな国だが、文化的・経済的な交流を深めていくことで、モーリシャスはマダガスカルとともにインド洋における絶好のパートナーとなる可能性がある。(こちらの前編から続きます)

 今回マダガスカルに行った一番の目的は、「JICAチェア」(JICA日本研究講座設立支援事業)において講義をすることだった。JICA(国際協力機構)は、世界の開発途上国すべてに、日本について学べる場を作りたいと考え、それぞれの国のトップクラスの大学に、日本について――とくに日本の近代化や戦後復興、日本のODA(政府開発援助)について――学べる講座を作ってもらおうという計画を、2020年頃から始めている。そのために日本について英語で書かれた優れた本やJICAが作ったDVDを寄贈し、毎年2度ほど講師を派遣することを計画している。現在JICAチェアはすでに55カ国で発足し、さらに30カ国近くでまもなく発足することになっている。

 このうちの講師派遣は、新型コロナの感染拡大で開始が遅れ、今年の3月からようやく始まった。今回は、私自身が講師としてアンタナナリボ大学に明治維新の話をしに行ったのである。

 私が、今回とくに縁があると思ったのは、明治維新後の政策は、いかにして米作一辺倒を脱して農業改良を行うかが、大きな課題だったからである。また、インフラ整備も当時の重要政策だった。道路なしに市場へのアクセスはないし、また農地改良事業もきわめて重要だったからである。講義は大変好評だったように思う。

 講義のあとには、日本の大学院に留学していた2人の若者にも会った。1人はコミュニケーション・文化省の広報担当の局長で33歳、もう一人は43歳の鉱物・戦略資源省の鉱山局長だった。私は彼らに、日本の近代化の例をあげ、しっかりした官僚制がなければ近代化は不可能なので、君たちの責任は大きいと言い、そのために、第1にフェアな行政を心がけてほしい、身内を贔屓するようなことは絶対だめだと言った。第2に、身辺をクリーンにしてほしいと述べた。とくに鉱山などは利権がからみやすい。明治時代でも政治家と鉱山企業の関係でスキャンダルがあった。それは国家に大きな害をなす。ぜひ身辺はクリーンにしてほしいと述べておいた。ただ、こう言いながら、最近の日本の官僚に、このようなよき伝統から逸脱する官僚が出ていることは、まことに憂慮すべきだと思わざるをえなかった。

マダガスカルの人を日本へ

ラジョエリナ大統領(右)と会談する筆者(左)
カテゴリ: 経済・ビジネス 社会
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執筆者プロフィール
北岡伸一(きたおかしんいち) 東京大学名誉教授。1948年、奈良県生まれ。東京大学法学部、同大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。立教大学教授、東京大学教授、国連代表部次席代表、国際大学学長等を経て、2015年より国際協力機構(JICA)理事長、2022年4月よりJICA特別顧問。2011年紫綬褒章。著書に『清沢洌―日米関係への洞察』(サントリー学芸賞受賞)、『日米関係のリアリズム』(読売論壇賞受賞)、『自民党―政権党の38年』(吉野作造賞受賞)、『独立自尊―福沢諭吉の挑戦』、『国連の政治力学―日本はどこにいるのか』、『外交的思考』、『世界地図を読み直す』など。
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