
今回マダガスカルに行った一番の目的は、「JICAチェア」(JICA日本研究講座設立支援事業)において講義をすることだった。JICA(国際協力機構)は、世界の開発途上国すべてに、日本について学べる場を作りたいと考え、それぞれの国のトップクラスの大学に、日本について――とくに日本の近代化や戦後復興、日本のODA(政府開発援助)について――学べる講座を作ってもらおうという計画を、2020年頃から始めている。そのために日本について英語で書かれた優れた本やJICAが作ったDVDを寄贈し、毎年2度ほど講師を派遣することを計画している。現在JICAチェアはすでに55カ国で発足し、さらに30カ国近くでまもなく発足することになっている。
このうちの講師派遣は、新型コロナの感染拡大で開始が遅れ、今年の3月からようやく始まった。今回は、私自身が講師としてアンタナナリボ大学に明治維新の話をしに行ったのである。
私が、今回とくに縁があると思ったのは、明治維新後の政策は、いかにして米作一辺倒を脱して農業改良を行うかが、大きな課題だったからである。また、インフラ整備も当時の重要政策だった。道路なしに市場へのアクセスはないし、また農地改良事業もきわめて重要だったからである。講義は大変好評だったように思う。
講義のあとには、日本の大学院に留学していた2人の若者にも会った。1人はコミュニケーション・文化省の広報担当の局長で33歳、もう一人は43歳の鉱物・戦略資源省の鉱山局長だった。私は彼らに、日本の近代化の例をあげ、しっかりした官僚制がなければ近代化は不可能なので、君たちの責任は大きいと言い、そのために、第1にフェアな行政を心がけてほしい、身内を贔屓するようなことは絶対だめだと言った。第2に、身辺をクリーンにしてほしいと述べた。とくに鉱山などは利権がからみやすい。明治時代でも政治家と鉱山企業の関係でスキャンダルがあった。それは国家に大きな害をなす。ぜひ身辺はクリーンにしてほしいと述べておいた。ただ、こう言いながら、最近の日本の官僚に、このようなよき伝統から逸脱する官僚が出ていることは、まことに憂慮すべきだと思わざるをえなかった。
マダガスカルの人を日本へ


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