電力不足を“原子力ムラ”の“為にする議論”にしてはならない

執筆者:町田徹 2022年8月19日
エリア: アジア
岸田総理は「政治の決断が求められる項目を示してもらいたい」と指示したという[GX実行会議=7月27日](C)時事
エネルギー安全保障と電力不足は確かに最重要の問題だ。原発をその有力な選択肢に含めるのにも合理性がある。だが、あたかも原発だけが危機を救えるかのように議論が変質したのはなぜなのか。2000年代の「原子力ルネサンス」の亡霊を強引に甦らせる“原子力ムラ”の我田引水は、日本の安全そのものを脅かす。

「2050年のカーボンニュートラルに向けて、原子力を含めたあらゆる選択肢を追求していくことが重要」「エネルギー安全保障なしには脱炭素はなしえない」――。

 あの教訓は、すっかり風化してしまったのだろうか。11年前の東京電力福島第一原子力発電所の大惨事など、どこ吹く風。“原子力ムラ”の人々の執念は凄まじい。

   経済産業省はお盆に休みに入る直前の8月9日、大臣の諮問機関「総合資源エネルギー調査会」の「電力・ガス事業分科会 原子力小委員会」を開き、次世代原子力発電技術の開発を謳う「カーボンニュートラルやエネルギー安全保障の実現に向けた革新炉開発の技術ロードマップ」をまとめ、「革新軽水炉(改良型軽水炉)」の商用運転を「2030年代」に始めると明記した。原発の新設や建て替えを認めてこなかった歴代政権の判断を見直すよう迫ったのだ。

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執筆者プロフィール
町田徹(まちだてつ) 1960年大阪生まれ。経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒業後、日本経済新聞社に入社。米ペンシルべニア大学ウォートンスクールに社費留学。雑誌編集者を経て独立。「日興コーディアル証券『封印されたスキャンダル』」(『月刊現代』2006年2月号)で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」大賞を受賞。著書に『電力と震災 東北「復興」電力物語』『行人坂の魔物 みずほ銀行とハゲタカ・ファンドに取り憑いた「呪縛」』などがある。2014年~2020年、株式会社ゆうちょ銀行社外取締役。2019年~、吉本興業株式会社経営アドバイザリー委員。
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