IRで「株主をデザイン」せよ――物言う株主「新たな全盛時代」のコミュニケーション術

執筆者:小平龍四郎 2023年5月23日
タグ: マネジメント
エリア: アジア
セブン&アイ・ホールディングスの委任状争奪戦はアクティビスト同士が共闘する構図ができている[セブン-イレブン・ジャパンの創業50周年記念式典に出席したセブン&アイの鈴木敏文名誉顧問(中央右)と井阪隆一社長(同左)=4月20日](C)時事
貴社IR活動は、運営を任せた証券会社が声掛けする投資家向けの「説明会」で終わっていないか。企業経営のフェーズによって、あるいは自社技術の専門性の度合いによって、貴社を理解する投資家の資質は違ってくる。「物言う株主(アクティビスト)」がメディアを賑わす株主総会シーズンも近づくが、アクティビストの戦略もすでに「村上ファンド」の時代とは大きく異なる。確かに上場企業は株主を選べない。だが、「選ぶための戦略を考える」ことはマストの時代が訪れている。

 5月~6月は企業が株主の存在を最も意識する季節だ。主要な米国企業や日本の大手流通業が5月に、多くの日本と欧州の企業が6月に、株主総会を開催する。ここ数年の株主総会で最も注目される存在は、いわゆる「物言う株主(アクティビスト)」。企業経営に様々なかたちで注文をつけ、総会への株主提案も辞さない投資家だ。日本ではアクティビストが経営トップの実質退任を求めているセブン&アイ・ホールディングスが5月25日に株主総会を開く。結果の如何に関わらず、アクティビストへの関心はおおいに高まる。経営陣にとっては企業価値を向上させる良きパートナーとなりうるが、上手につきあっている企業は少数だろう。

 往年のような物言わぬ株主、すなわち持ち合い株主の復活は期待できないにせよ、もう少し長い視点で経営を見てくれる投資家はいないものか……。これが、多くの日本企業の経営者の偽らざる気持ちのはずだ。そうかといって、大規模な資本調達の見返りとして株式を不特定多数の自由な売買に委ねている上場企業は、株主を選ぶことはできない。原則、どんな特性の投資家が株主になろうとも、平等につきあわなければならない。株主平等の原則だ。

 さて、どうするか。

 上場企業は株主を選べないが、選ぶための戦略を考えることは有効である――。筆者はこう考えている。特に最近は、オムロンで投資家向け広報(IR)を担当する井垣勉氏の考えをうかがう機会を得て、確信を深めた。

「企業は株主を選べないが、選ぶ努力はできる」。コンサルや日本コカ・コーラを経てオムロンに引き抜かれたコミュニケーションのプロは、IRの極意をこう語った。具体的に実行するテーマは以下の通りだ。

オムロンIRの「極意」とは

 まず年初に、1年の間にアプローチすべき長期運用の機関投資家を60〜80社選ぶのだという。その上で個別の運用会社の投資余力やオムロン株の保有状況・可能性などを分析し、年600〜700件のワン・オン・ワン(個別)、あるいはスモール・ミーティングを実施する。こうした投資家ミーティングが、最盛時には年900件に達した。

 ミーティングの主要なトピックスは……

この記事だけをYahoo!ニュースで読む>>
カテゴリ: 経済・ビジネス
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
小平龍四郎(こだいらりゅうしろう) 日本経済新聞社論説委員兼編集委員。1988年、早稲田大学第1文学部卒。同年、日本経済新聞社入社。証券部記者として「山一証券、自主廃業」や「村上ファンド、初の敵対的TOB」「カネボウ上場廃止」などを取材。欧州総局、論説委員、アジア総局編集委員、経済解説部編集委員などを経て現職。日経本紙コラム「一目均衡」を10年以上執筆している。著書に『グローバルコーポレートガバナンス』『アジア資本主義』『ESGはやわかり』(いずれも日本経済新聞出版社)がある。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top