オペレーションF[フォース] (14)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第14回

執筆者:真山仁 2023年5月27日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】官邸に呼び出された周防たちは、「フラフラ殿下」こと大迫総理の面前で、舩井防衛相から防衛費増額を認めるよう迫られる。財務相は抵抗を見せるが、総理は防衛相に与した。

 

Episode2 傘屋の小僧

 

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 2022年8月7日――。

 日本人は8月になると戦争を思い出す。77年前のこの月、原爆が投下され、15日に終戦を迎えるという、この悲劇の歴史があるからだ。テレビでは、戦争関連の特番やドラマが流れ、新聞や雑誌も、戦争特集を組む。

 今年も例年通り、戦争の記憶があちこちで叫ばれているが、周防は、いつもと違う感覚で戦争を意識していた。

 今そこにある危機として、日々向き合っているからだ。 

 戦争なんて起きるわけがない。

 多くの日本人はそう思っている。だが周防はその確信が揺らいでいる。

 昨夜、原爆特集のテレビ番組を見た時も、平常心でいられなかった。

“それまでの戦争とは、軍人同士の戦いであり、そこには一定のルールがあった。それが、第二次世界大戦によって完全に破られた”というナレーションの言葉は、周防に重くのしかかってきた。

 その「皆殺しのルール」の象徴こそが、原爆投下だったのではないかと、コメンテーターが語っていた。

 周防もその通りだと思う。

 現在、核兵器は戦争を起こさないための「抑止力」として存在している。

 だが、その「抑止力としての核兵器」を公に有しているのは、日本とドイツを除く先進国に、ほぼ限定されている。

 台湾有事が取り沙汰されるようになった今年2月、故梶野元総理は、「日本も核武装を考える時がきた」と発言して、物議を醸した。

 それを聞いた時は、周防は怒りを覚えた。

 しかし、今は「バカ」と吐き捨てることが出来なくなっている。

「こんな備えで、日本を守れるのか」という声が、日増しに強くなっている。

 そんな中でも「雑音に耳を貸さない」という松平の姿勢は揺るがず、毎週行われている防衛省との折衝でも、今なお徹底抗戦を指示していた。

 とはいえ、ミサイル防衛については、防衛省側も一歩も引かなかった。防衛三文書の最上位に当たる「国家安全保障戦略」の内容が、台湾有事対策と日本の自主防衛が中心となるからだ。そのため財務省側は譲歩を余儀なくされつつあった。

 この日も、官邸から戻ってきた松平と本岡を交えて、「国家安全保障戦略」に対応した予算増について検討していた。

「ここまで来ると、全面的に抗うのは筋が違う。これからは、有意義な増額について検討したい」

 いかにも松平らしい切り替えだなと周防が思った時、突然、不快なアラート音が鳴り響いた。……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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