2024年10月11日、ノルウェー・ノーベル委員会は、2024年のノーベル平和賞を日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)に授与すると発表した。関係者は歓喜し、国内では、ごく一部を除いて極めて好意的に受け止められた。
しかし、ノーベル委員会がどのような認識のもとで、被団協の何を評価したかについては、必ずしも正確に理解されているとはいえないかもしれない。そこで以下では、ノーベル委員会による発表文に依拠してノーベル委員会の意図を分析したうえで、それが日本や世界にとって何を意味するかを考えることにしたい。端的にいって、今回ノーベル委員会が重点をおいたのは、核兵器廃絶よりも、核兵器をいかに二度と「使わせない」ようにするかである。
被団協は何を達成したのか
ノーベル委員会の発表は、冒頭で、授賞理由として、(1)核兵器なき世界達成への努力と、(2)関係者の証言をつうじて核兵器が二度と使われてはならないことを示したこと、を挙げた。このうち、(2)に重心があったことは明確である。核兵器なき世界については、冒頭の授賞理由として一言触れられているだけで、その後はまったく言及がないからである。
かわりに繰り返し登場して強調されるのは、核兵器は使われてはならないという、「核兵器使用のタブー化(nuclear taboo)」の重要性である。この国際的規範の形成に被団協による活動が大きな役割を果たしたというのである。
ノーベル賞のなかでも、平和賞は、その選定の政治性が批判されることも多い。物理学賞や化学賞などに比べて賛否が問われがちなのは、性質上やむをえないといえる。それでも、平和賞の選定において、やはり重視されるのが「何を達成したか」という成果であることは当然だろう。少なくとも、成果が説明できる必要がある。
その意味で、被団協が達成したのは、核兵器なき世界を進めたことではない。核兵器なき世界への道は、むしろ遠くなっているのが世界の現実だからだ。したがって、上記(1)でも、「努力」としか述べていない。努力は認められたとしても、それ自体では成果だと説明できない。
そこで重視されたのが(2)であり、その結果が、「核兵器使用のタブー化」だという論理になる。この国際規範の形成への貢献という重要な成果があり、これが評価された。この論理構成は重要である。
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