投稿者:マミタン2010年09月18日12時34分
ティーパーティー運動の背景
アメリカでは、ティーパーティーや、先の大統領選挙におけるオバマ支持派の運動等、グラスルーツデモクラシーが政治の動向の影響を及ぼしてきているように思います。

政治学的には、現代社会は巨大化・複雑化しているため、一般の人々は政治的アパシーになるという傾向があると分析されているかと思いますが、米国のグラスルーツデモクラシーはこの傾向とは反対のベクトルだといえます。

グラスルーツデモクラシーは、主権者が直接政治・政策に影響を及ぼしうるという意味では、民主主義の理念に近く、『理想型』としては望ましいという見方が出てきます。

その一方で、所謂「マス」の人々が高所から見た観点で政治・政策を語りうるのかというと、それはできない。よって、高所から物事を考え、判断する代議士が必要なのでしょうが、グラスルーツデモクラシーはこの代議制の根本を揺さぶりつつあるという見方も出てくるかと思います。

グラスルーツデモクラシーが出てきた背景には、米国建国の精神からくる発想、ネットの普及、小集団が共同体的な心的結合を作り出している、宣伝技術の巧妙化等、種々の要因を孕んでいるのだと思います。アメリカにおいてグラスルーツデモクラシーが発展しつつある背景を分析した記事があると、更にティーパーティー運動理解が、読者として深まると感じた次第です。

追記すると、昨今の世論調査により政策の是非を判断するかのようなマスコミの報道、民主党代表戦における異常なまでの世論の強調等、我が国も形を変えた直接民主制の発想が出てきつつあるのじゃないかと感じています。
アメリカのグラスルーツデモクラシーの分析は、日本政治を理解する上でも役立つのじゃないかと思っています。
投稿者:つるりん2010年09月19日04時25分
政治学的、社会学的、そして心理学的アプローチで米中間選挙を分析する
 足立さんの分析は政治学的アプローチ、マミタンさんの分析は社会学的・心理学で、お二人の意見を合わせると、今回の米議会中間選挙の本質がくっきりと浮かび上がってきます。
 9月からフォーサイトの会員になって専門家の部屋をいろいろ覗いていますが、ある意味で、今回のお二人の議論ほど鋭く包括的な分析は初めてで、正直知的に興奮しています。もっと議論いたしませんか?

 外交・安全保障の実務家として申し上げれば、今回のティーパーティーの動きは、「政策的にみれば」米共和党にとって混乱要因です。なぜなら、出口が見えない失業率と景気低迷が続いてオバマ政権の支持率が低迷する中で、共和党にとっては中道と無党派層を取り込むことが11月の選挙で下院過半数を奪回するのに必要な戦略であるにもかかわらず、ティーパーティは、共和党をどんどん右に持って行ってしまうからです。
 しかし「政治的にみれば」これは米共和党にとってチャンスかもしれません。なぜなら、共和党は今まで、オバマ民主「失政」の裏返しとして支持率を伸ばしてきましたが、共和党自身に米国民をひきつけるチャームやカリスマがあったわけではなく、ある意味で、米民主党の失敗の反射的効果としてパッシブに支持率を伸ばしてきただけだからです。
 そんな中、ティーパーティーの運動は、米世論の真ん中から右の人々の心に政治的・感情的に火をつけたと思います。それは、共和党が米下院で多数を奪回しようとする上で、すごい政治的パワーになるかもしれません。
 だたし、そのパワーといいいますか、ティーパーティーの政治的な力はbrutalであり、一つ間違えば共和党自身を焼き焦がすことにもなりかねないのではないか、と思います。
 乱暴な議論でしょうか。
T
投稿者:The Sovereign2010年09月20日14時15分
ティーパーティ運動に見られる政策論争以前の問題点
ティーパーティ運動の台頭を見ていると、政策論争以前の問題として、その反知識人的な姿勢 (anti-intellectualism) 、「世の中で起こっていることを正しく理解しなくてもいい、とにかく不満を吐き出そう(そしてそれを現職の政治家にぶつけよう)」という、ものを深く考えることに対する軽蔑の姿勢を感じます。これに現在の経済危機を高みの見物している金持ちが、ブッシュ減税の終了にともなう増税を心配して運動に加わり、一部の白人保守派の底流に依然としてある人種差別が加わり、「黒人大統領からアメリカを取り戻そう」という運動に見えます。アメリカはこれらの問題を、問題の根深さを考えると、うまく処理してきたといえるのですが、今回は「知」に対するあからさまな軽蔑が前面に出てきて(サラ・ペイリンを筆頭に)、議論を通して問題を解決していこうとする姿勢がティーパーティーには見られないのが心配です。

もう一つ、今回の予備選挙で意外なのは、アメリカの有権者は予備選挙でも本選挙を見据えて投票する傾向(政治学で「戦略的投票」と呼ばれる投票行動)があって、これは政治学者の研究で確認されてきたのですが、今回は違うのでしょうか。それとも、本当にティーパーティーの候補者が本選挙でも得票を伸ばすのでしょうか。この点は今後の展開が興味深いところです。
投稿者:つるりん2010年09月20日23時03分
反知識人的な姿勢 とのご指摘について
 ワシントンに長年住んでいてもまさにそれは感じました。ホーフスタッターの名著「アメリカの反知性主義」は今から50年近く前に書かれた名著ですが、そこにも書かれているように、建国来のアメリカを支える二つの精神、すなわち「フロンティア・スピリット」と「ピューリタニズム」には、いずれも知性・知識人に対する反発が要素として組み込まれています。
 したがって、米世論・政治の反知識人的傾向は、ある意味で米国人の遺伝子にすり込まれているが故であって、必ずしも最近にはじまったことではないと思いますが、ここ数十年の,マスメディアを媒介とした米政治の一層の大衆化・愚民化に伴い、一層加速されているような気がします。ペイリンのような政治家が共和党のスターとして出てくるのは、まさにその象徴なのでしょう。
投稿者:アメリカの部屋2010年09月20日23時34分
共和党の路線とティーパーティー運動
今回のティーパーティー運動はオバマ政権発足後の一連の財政支出を契機に昨春から表面化しましたが、それ以前からブッシュ政権が内政、外交ともに政策上行き詰まる中で、共和党内には中道路線を歩むべきか、それとも保守理念をより鮮明にすべきかの大きな迷いがあったと個人的には考えています。

2008年共和党大統領候補指名プロセスでは、Fred ThompsonもMitt Romneyも保守派候補として浮上することができず、最終的に共和党員が2008年共和党大統領候補に選出したのは一時は選挙キャンペーンが資金的に行き詰まり、政治生命は終わったと見られていた穏健派のJohn McCainでした。同プロセス自体が共和党が今後進むべき路線について大きく揺らいでいた象徴のように感じられます。そうした中でのオバマ政権の政策に対するアンチテーゼとしてティーパーティー運動が台頭し、現在、共和党にポジティブ、ネガティブ両面での影響が生じています。

つるりんさんが御指摘のようにオバマ政権の政策に対する不信として共和党への支持が広がっており、それは決して「積極的支持」ではなく、「消極的支持」であり、各種世論調査でも議会共和党に対する米有権者の支持は議会民主党のそれと同様に極めて低いレベルで推移しています。また、1994年のNewt Gingrichに率いられた中間選挙キャンペーン当時の「Contract with America」と比較すると共和党指導部の米国民向けメッセージも今回は具体性を欠いており、オバマ政権の政策批判の方が目立つ印象があります。
共和党が来年1月に開会される第112議会で米有権者の期待を裏切った場合、とてつもないエネルギーは共和党に"backfire"して、大きな失望へと代わってしまうリスクがあるのではないかと個人的につるりんさんに同感です。

皆さんのコメント大変刺激的です。いつも有り難うございます。

足立
投稿者:マミタン2010年09月23日18時30分
ティーパーティー運動の中間選挙への影響について
皆さんの投稿を読み、ティーパーティー運動の背景や影響について色々と理解を深めることができました。

つるりんさんの投稿に、ティーパーティー運動が共和党を右に引っ張るとありますが、仮にティーパーティー運動が共和党を右に引っ張るのであれば、次の理由により共和党に不利に働く可能性が出てくるのではないかと思います。
前提として、『選挙人登録をしている有権者のうち、4割が民主党支持、4割が共和党支持であり、残り2割の帰趨が選挙戦で決定的な影響を持つ』というモデルで考察した場合、ティーパーティー支援により選出された共和党候補の主張は所謂「中間派」の共鳴を得られないので、オバマ大統領・民主党批判層の票を取り逃し、苦杯をなめる接戦選挙区が多くなるのではないかと思います。
また、「アラスカ保守勢力分裂の波紋」にあるように、ティーパーティー運動により予備選に敗れた現職の出馬という事態も、共和党に不利に働く要因になると思います。

一方、The Sovereignさんが指摘しているように、ティーパーティー運動がanti-intellectualismの表出であるのならば、これはアメリカ人の琴線にふれるので、中間派の票が雪崩をうってティーパーティー支援の共和党候補に票が流れ、今回の中間選挙における共和党圧勝の原動力になるのかも知れません。

無論、中間派の投票行動は更に多くの要因に影響されて決まるのであり、それらの要因も考察しなければ、中間派の投票行動は予想できないとは思いますが、ティーパーティー運動が米国の政治に少なからぬ影響を与えているということは否定のできない事実かと思います。

皆さんの投稿を読み、今後の米国の動向を占う上でも、ティーパーティー運動を引き続き注視する必要があると改めて感じました。