「世界中の青空を集めた」 『東京オリンピック作戦 支援に参加した自衛隊員の手記』

執筆者:船橋洋一 2000年1月号
タグ: 日本 自衛隊

 一九六四年十月十日、東京の国立競技場で、東京オリンピックの開会式が行われた。 その日、東京の空は、澄み渡った。前夜の雨がウソのようだった。「世界中の青空を集めたような青さです」とNHKの実況アナウンサー、北出清五郎は晴れ晴れとした声で表現した。 国旗掲揚。透明な日光が、各国の国旗に降り注ぐ。百十本の旗が、一斉に狂いなく、しずしずと揚がっていく。この間、きっかり二十五秒。 旗の掲揚を担当したのは、自衛隊式典支援群航空旗章隊だった。 国旗掲揚は単純な動作のように見えて、実は極めて難しい。風の強弱、滑車の具合、ポールの位置、長短、掲げ綱のたぐり方、何時間も直立不動で立っていることからくる神経と肉体の緊張……それらが影響を及ぼし、旗に一メートルぐらいの誤差はすぐ出てしまう。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
船橋洋一(ふなばしよういち) アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。1968年、朝日新聞社入社。朝日新聞社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。米ハーバード大学ニーメンフェロー(1975-76年)、米国際経済研究所客員研究員(1987年)、慶應義塾大学法学博士号取得(1992年)、米コロンビア大学ドナルド・キーン・フェロー(2003年)、米ブルッキングズ研究所特別招聘スカラー(2005-06年)。2013年まで国際危機グループ(ICG)執行理事を務め、現在は、英国際問題戦略研究所(IISS)Advisory Council、三極委員会(Trilateral Commission)のメンバーである。2011年9月に日本再建イニシアティブを設立し、2016年、世界の最も優れたアジア報道に対して与えられる米スタンフォード大アジア太平洋研究所(APARC)のショレンスタイン・ジャーナリズム賞を日本人として初めて受賞。近著に『フクシマ戦記 10年後の「カウントダウン・メルトダウン」』(文藝春秋)、『自由主義の危機: 国際秩序と日本』(共著/東洋経済新報社)、『地経学とは何か』(文春新書)、『カウントダウン・メルトダウン』(第44回大宅賞受賞作/文春文庫)など著書多数。
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